あなたにキスの花束を
ナイルの庭の爽やかな香りが、鼻腔に忍び込む。彼の香りだ。
「少なくとも俺は、嘘くさい笑顔に簡単に惚れるほど世間知らずじゃない」
「片桐さん…」
「今日君と話せて、本当に愉しかった。君は俺の想ってた通りの人だった」
片桐さんは私の肩をそっと掴んで、僅かに身体を放す。
真っ直ぐに私を見下ろしてくれる眼差しを、はにかむように細めてから。
ずっと手にしていた花束を、彼は私へと差し出してくれたのだ。
「だから、これをもらってください」
私の手を取って花束を握らせてくれるのは、片桐さんの男の人らしい大きな手。
「これは最初から、君のための花束だったんだから」
色鮮やかな花束を持つ私の手を温かな手で包んでくれながら、片桐さんはそう言って綺麗に笑った。