あなたにキスの花束を


「男が居るなら最初からそう言えよ」という青年の捨て台詞が後ろから聞こえるが、今の私は石っころなので、腹を立てる事もない。


しばらく雑踏を歩いて勧誘の青年を完全に遣り過ごした頃、私の肩を抱く王子の腕がようやく緩んだ。

温もりが離れる寂しさに、我に返った私は。
咄嗟に彼のコートの端を無意識に掴んでしまった。



「ああああの! 本日はお日柄も良く! いえそうではなく、先程は失礼しましたというかありがとうございましたというか!」



我ながら動揺しすぎて何が言いたいのかさっぱり分からない。
だって言いたい事や聞きたい事がてんこ盛りなのだ。

彼は私の剣幕に気圧されたのか、一瞬足を止めて眸を丸くしてから。

泣きぼくろを含む目許を甘く和らげて、私を見下ろす。



「どう致しまして。それと、勝手に先に帰っちゃ駄目じゃないか、美咲ちゃん」



王子が私の名前を覚えてくれている、だと…!
さっき合コンの冒頭で一回名乗っただけなのに。

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