正しい紳士の愛し方
道に迷った子どものよう。
右も左も分からないのに行き先知れずで、ただ不安になっている。
迷子になるのは目的地を決められない自分が悪いのに、道の複雑さを言い訳にズルズル先延ばし。
こんなやり方うまくいきっこない。
「分からないなら好きなままでいたらいい。“希望が無い”なんて誰が言った?
何のためにこんな場所まで連れてきたと思ってるんだよ……」
「百合さんに告白するため……でしょ」
「そうたけど、そうじゃない。人のスピーチを最後までちゃんと聞かないから、しなくてもいい誤解をするようになる」
「だって……好きな人の告白なんて普通に聞けないよ……」
アタシ、何でちょっと怒られてんの?
樹は不満を表情にあらわす。
「“俺も幸せになるから”」
大和さんの口から出た台詞。
あまりに急で、樹は大きな瞳をパチクリさせた。
「あの後、俺はスピーチでそう言ったんだ。本当に伝えたかったのは、寧ろこっち。“誰と……?”なんて野暮な事、彼女は尋ねてこなかったよ」
「じゃあ、アタシが聞いてもいい?大和さんは誰と幸せになるの……?」
樹は砂浜を滑る静かな小波のような抑揚(よくよう)で彼に問いかけた。
願わくは、自分の名前を答えて欲しい。
これがきっと最後のチャンス。
お願い――…答えて。
樹は瞳を閉じて彼の返答を静かに待った。