正しい紳士の愛し方
「ホント鈍感……」
彼からたった一言出ると、樹の淡いピンクの唇にそっと口つけた。
マシュマロが触れるみたいな柔らかさ。
樹は閉じていた瞼をゆっくり開く。
「樹ちゃん、好きだよ」
何度も何度も耳にした言葉。
正直、耳ダコ。
特別だなんて少しも感じられない。
それでも、急激に目頭が熱くなるのはどうしてだろう。
「……愛してるんだよ?」
やっと絞り出した言葉に疑心が含まれる。
大和さんを信じてないんじゃない。
信じられないのは樹自身の心。
「アタシの“好き”はそういう意味だよ……」
満が作ってくれるきんぴらごぼうが好き……とかそんなありふれた“好き”じゃない。
大和さんの“好き”と自分の中の“好き”が同じだってどうやって信じたらいい?
この気持ちが目に見えたなら、どんなに素晴らしいか……