正しい紳士の愛し方


グルグルと目が回ってしまいそう。


「おい!いい加減にしろよ、晴司朗(せいしろう)」



せいしろう……?



「いやん……その名前で呼ばないで!“晴子(はるこ)”じゃなきゃ離れてやんない!」



はるこ……?



爆発寸前だった思考は完全にショートして、樹は目の前の人にされるがままとなった。


「ほら……お前のせいで完全にパニクってるじゃないか」


大和さんは二人の間をバリッ引き離し、樹を自分の方へ保護すると「大丈夫、樹ちゃん?」と気遣った。


樹はコクンと頷いて「なんとか……」と苦笑する。


「嬉しくって、つい……。ごめんなさーい」


「気持ちがこもってない」


「無いものはこめられないもーん」


「……そうか。じゃあ、俺が込めてやろう」


大和さんはブンと拳を振り上げて言う。


「やーん、女子を殴る気?それが紳士と名高い高津 大和のすることなのぉ?」



女子……?



もはや、このフレーズに違和感しかない樹だったが、閑静なマンション内でこのカオスな状況は間違いなく無しだ。


「ココではなんなので、よろしければ中に入りませんか?お、お弁当もあるので……」


樹は花柄の紙袋に入れてきた弁当をチラリと見せて提案してみる。


大和さんは「仕方ない……」と溜め息を吐き、三人は揃って彼の部屋に入る事となった。



< 110 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop