正しい紳士の愛し方
グルグルと目が回ってしまいそう。
「おい!いい加減にしろよ、晴司朗(せいしろう)」
せいしろう……?
「いやん……その名前で呼ばないで!“晴子(はるこ)”じゃなきゃ離れてやんない!」
はるこ……?
爆発寸前だった思考は完全にショートして、樹は目の前の人にされるがままとなった。
「ほら……お前のせいで完全にパニクってるじゃないか」
大和さんは二人の間をバリッ引き離し、樹を自分の方へ保護すると「大丈夫、樹ちゃん?」と気遣った。
樹はコクンと頷いて「なんとか……」と苦笑する。
「嬉しくって、つい……。ごめんなさーい」
「気持ちがこもってない」
「無いものはこめられないもーん」
「……そうか。じゃあ、俺が込めてやろう」
大和さんはブンと拳を振り上げて言う。
「やーん、女子を殴る気?それが紳士と名高い高津 大和のすることなのぉ?」
女子……?
もはや、このフレーズに違和感しかない樹だったが、閑静なマンション内でこのカオスな状況は間違いなく無しだ。
「ココではなんなので、よろしければ中に入りませんか?お、お弁当もあるので……」
樹は花柄の紙袋に入れてきた弁当をチラリと見せて提案してみる。
大和さんは「仕方ない……」と溜め息を吐き、三人は揃って彼の部屋に入る事となった。