正しい紳士の愛し方


円卓を囲むこのスリーショットはどこをどう見ても異常事態。


初めてのお宅訪問を二人で穏やかに過ごすつもりが、まさか酸素の無い宇宙空間に放り込まれたような環境に陥ようとは数分前まで夢にも思っていなかった。


「お、お口に合うか分かりませんがどうぞ……」


樹は取り皿と箸を配膳し、みんなが取りやすいように真ん中に位置付けられた弁当をお披露目した。


「うわぁ、美味しそうね!いただきまーす」


晴子さんは手を合わせ、遠慮なく玉子焼きをつまむ。


すぐに口に含むと「美味しいわぁ……」と表情を綻ばせた。


「何でお前が食べてるんだよ。これは俺のための弁当だろ……」


「あら、やだ。樹ちゃんが“どうぞ”って言ってくれたの聞こえなかったのかしら」


今度は俵(たわら)おむすびをつまむ。


「それは俺に言ったんだ」


「それなら、頂いたらどう?ボヤボヤしてると無くなっちゃうわよ」


大和さんは晴子さんがおむすびを頬張るのを見て「分かってる」と唐揚げを取って食べる。


「大和さん、美味しい……?」


樹は緊張した面持ちで感想を尋ねた。


他の人にどんなに褒められても、大和さんの口に合わなければ意味がない。


「美味しいよ」


彼は優しく微笑んで味を褒めた。


ご褒美だとでもいうように樹の頭をポンポンと撫でる。



もう、幸せ……!



これ以上、何もいらない。


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