正しい紳士の愛し方


樹の至極幸せそうな表情を彼女は見逃さない。


「見せつけてくれるわねぇ。こっちまで照れちゃうわぁ……」


晴子さんは両手を頬にやり、上半身をクネクネさせた。



そうだ、今は大和さんと二人きりじゃない。



急に恥ずかしくなって、樹は赤面した顔を隠すため下を俯く。


「そうか。では、今すぐ帰ってくれ。これから何度も照れさせてしまっては申し訳ない。さぁ……出口はあちらですよ、晴子」


大和さんは玄関を指さして告げた。


「こんな時だけ“晴子”なんて酷すぎ~」


精一杯可愛くプリプリ怒る仕草はちょっとブリっ子な女子そのもので、言われなければ男性だとは気付かないだろう。



大和さんとフランクに会話するこの人は何者だろう……



ただ者ではないことだけは確かだろうが……



「あの……、今さらですが彼……いや、彼女はどちら様で?
えっと、アタシは小林 樹と申します。一応、美容師をしてます」


樹は自己紹介を簡単に織り交ぜつつ、ペコッと頭を下げた。


「私は晴子。高津書房 コミックチェリー編集部の編集長をしているの」


「コ、コミックチェリー編集部!」


樹は仰天して目をパチクリさせた。


“コミックチェリー”と言えば女性向けの恋愛雑誌で、樹も愛読しているマンガが沢山掲載されている。


心を満たされる作品ばかりで、樹の恋愛バイブルと言っても過言じゃなかった。


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