正しい紳士の愛し方
「アタシ、コミックチェリーの大大大ファンなんです!凄い!こんなところで関係者と会えるなんて……ヤバイ!」
樹の興奮はマックスで、さっきまでボディータッチでパニックしていたのが嘘みたいに晴子さんの手を強く握りしめた。
神を崇めるように樹の目はキラキラしている。
「……晴司朗の間違いだろ」
横目で見ていた大和さんが不機嫌そうに水をさす。
その様子に晴子さんの口角が再びゆっくり引き上がる。
「やだぁ……男の嫉妬とか見苦しい~。ちょっと私たちのファンで、樹ちゃんの気持ちを鷲掴んじゃったからって心狭すぎぃ」
「いい大人が嫉妬とかアホらしい……」
大和さんはフイッと視線を逸らすと、お弁当の煮物に箸をつけた。
「“嫉妬”といえば、アタシ……前に駅近の時計台が目立つ高級ホテルに大和さんと晴子さんが二人で入っていくところ見かけたんですよね。
晴子さんがあまりに綺麗だったから、アタシちょっとヤキモチ妬いちゃった。まぁ、その時はまだそんな資格無かったんですけど……」
のんきに語る樹とは裏腹に、二人は互いに顔を見合わせた。
楽しいとか愉快とはちょっと遠い表情をしている。
「あの……アタシ、何かまずいこと言いました?」
樹は不安になって彼らに問う。
「ううん!そんな事ないわよ!ねぇ……大和?」
「あ、あぁ。本当に偶然だよな。驚いた……」
二人は笑ってその場をおさめようとしている。