正しい紳士の愛し方
樹は何も言えず、ただ大和さんの顔色を窺った。
一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされてしまう。
「あんな格式高いレストランって一人で入るものじゃないでしょ。だからって、男同士で行くのも変だし。女の子連れて行くわけにもいかない。
そこで白羽の矢がたったのが、男には見えなくて女でもない私ってわけ。
女じゃないって失礼な話よね~」
晴子さんの説明を聞いて、樹は「なるほど……」と妙に納得してしまった。
「彼、カッコ付け屋だからあなたの前でスマートにエスコートしたかったのね。まさか、見られてたなんて思わなかったけど。
考えるだけでも恥ずかしい~」
晴子さんは彼をからかうようにクスクス笑いながら言った。
「黙れ、晴司郎」
たまらず、大和さんも言い返す。
大和さんはいっもスマートで紳士的だと思っていた。
実際、そうだとも思う。
でも、全てじゃない。
その裏にはきっと本当の大和さんがいる。
「私、そろそろ帰るわ。樹ちゃん、お昼ご馳走さま」
晴子さんはニコッと微笑んで席を立っ。
樹も席を立って「玄関まで送ります」と後に続いた。
大理石の玄関で、晴子さんは真っ赤なピンヒールの靴を履く。
とっても似合っていた。
「樹ちゃん、ちょっと……」
晴子さんが手招きして樹の事を呼ぶ。
樹は「何ですか?」と歩み寄った。