正しい紳士の愛し方
「私、大和にあんな頼み事されたの初めて。よほど、あなたがお気に入りなのね……」
耳元で囁かれた言葉。
樹の心にピリピリっと刺激が走る。
「じゃあ、またね!」
晴子さんは手を振って、大和さんの部屋を後にした。
樹の顔はポーッと熱をもって、彼のいるリビングへ戻っていく。
「晴子さん、帰られました……」
「そう」
二人の間に沈黙が生まれた。
つい先程まで賑やかだった分、この沈黙は鈍く重たい。
大和さんが無言で席を立つ。
樹はガタンと椅子を引く音で驚いて、真っ白い壁にベッタリはりついた。
大和さんは樹の前へおもむろに立ち、トンと片手を壁につく。
呼吸も伝わるほどの距離で、二人は顔をつき合わせた。
「やっと二人きりになれた」
広々とした部屋で逃げられない距離にいる。
そもそも逃げる必要は無いんだけど。
「樹、君は俺のものだ。これから先、ずっと……」
彼は紳士らしからぬ言葉を残して、樹の唇に口付けを落とす。
濃厚で、甘美で、逆らう事を許さない口付けを――…