正しい紳士の愛し方

自分で言って悲しくなる。

彼と出逢って、幾度となく口にした“好き”の二文字。

「返事は……?」

「“俺も樹ちゃんのこと好きだよ”って」

これも何度も聞いた台詞。

「それって両想いじゃないの」

「“好き”の意味がさ、なんか違う気がするんだよ。大和さんのアタシに対する“好き”は、アタシ……満が作るきんぴらごぼうが大好き……っていうのと同じ気がする。
愛しているじゃなくて、嫌いじゃないの“好き”なんだよ」

樹はきんぴらごぼうを箸でつまんで、それを淋しそうに見つめる。

自分は所詮たべものと同じレベルなんだ。

いつも会社で女子社員たちに囲まれている彼を思えば、満も何も言えなかった。
< 17 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop