正しい紳士の愛し方

その時、樹のスマホがバッグの中でブルブルっと震えた。

「里奈さんかな……」

飲み会の別れ際、寂しそうにしていた同僚。

酔ったはずみで誰かに電話してしまうのはいつもの事。

普段の流れで電話を受けようとした樹の手が固まった。

「出ないの?」

「うん……出る」

樹は通話ボタンを押して「もしもし」と電話に出た。

『もしもし、今話せる?』

電話の相手はさっきまで彼女たちが噂していた本人。

樹は「はい」と短く返事をするだけ。
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