正しい紳士の愛し方


「樹ちゃんの手は一生懸命な人の手だよ。手荒れだったりタコだったりって一生懸命な人にしかできない印みたいなもんだから。夢はちゃんとこの手で育ってる」


彼は樹の手をやんわり握る。


自分を見守ってくれる人がいることが嬉しくて、樹は「ありがとう」とお礼を言った。


「俺の髪も切ってもらおうかな……。そろそろ切り時かなって思ってるんだよね」


彼は自分の髪を少しつまんで上目遣いで見る。


突然のことで樹は少々動揺した。


「いや……でも、アタシまだ見習いだよ?」


「駄目?」


「……ダメじゃないよ?」



ダメじゃない。



触ってみたい。



好きな人の髪型が自分色になる。


そう思うだけで鼓動は大きくなった。


それと同時に、彼の魅力を失わせる結果にならないか不安もつのる。


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