正しい紳士の愛し方


「じゃあ、決定」


その時、ちょうど信号が青に変わる。


彼が運転に戻ることで、繋がれていた手も自然と離れた。


「……うん」


手持ち無沙汰になる樹の手。


近づいたかと思うと離れていって。


「もうすぐ着くよ」


数十メートル先にショッピングモールの案内板が立っているのが見えた。


二つ先の交差点を右折するとすぐのところ。


ここで形に残る思い出ができる。


大和さん以外の人が相手ならすぐにでも実現しそうな小さな願い。


もし叶えられたなら、ちょっとの事でギスギスしてしまう気持ちも、不安と高揚感の波も少しは落ち着くかな。


後ろを追いかけてばかりの立ち位置が縮まったらいいのに。


彼が運転する車は、ショッピングモールの立体駐車場の薄暗いスペースに吸い込まれていった。



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