正しい紳士の愛し方
「色々あるのにこんなにあっさり決めて良かった」
「いいの、いいの!この機種、綺麗に撮れるって有名だし」
多分――…
樹は最後の未確定な部分をゴクリと呑み込んだ。
「樹ちゃんがそう言うなら俺は構わないんたけど」
大和さんはコートのポケットから黒い革の財布を出した。
小銭入れを覗いて「両替してくる」とその場を離れようとする。
「待って!」
樹は渾身の力で引き止めた。
大和さんが驚くのは言うまでも無く。
振り返った彼の表情を見て、樹もようやく落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめん……両替ならアタシが行くよ。ちょうどお札をくずしておきたかったんだ。大和さんはここにいて」
平常心、平常心。
樹は心の中で呪文のように何度も唱えながら、プリクラ機から出て行く。