正しい紳士の愛し方


両替機は樹たちが選んだプリクラ機のすぐ近くにあった。


財布から千円札を一枚出して、両替機に投入する。


ジャラジャラと百円玉が流れ出てくる音と一緒に聞こえる人間のヒソヒソ声。


「なーんだ……男の人じゃないんだ……」


「残念……」


樹の背中にチクチク刺さる視線。



聞こえてるよ。



大和さんじゃなくて悪かったね……。



樹は心の中で苦言を吐く。


両替した小銭を財布に戻し、知らぬフリをしたまま大和さんが待つ場所はへ戻った。


「おかえり。ごめん、お金……」


樹が戻ると、彼はすぐに自分の財布から千円札を取って差し出した。


「いいよ、いいよ。撮りたいって言ったのアタシなんだし」


「いや、それじゃ悪いから」


彼はなかなか引かない。


デートで女性にお金を出させるのはポリシーに反するのだろう。


たとえ、それが数百円の小銭であっても。



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