正しい紳士の愛し方
大和さんっ……!
喉の奥から逆流するかのように名前を呼びそうになった。
葉にする前に口を塞ぐ。
「どうしたの、樹ちゃん?」
「ううん、何も……」
樹はなんでもないように首を緩く左右に振る。
里奈さんの興味は彼に一点集中していた。
それは、彼がホテルの中へ入っていくまで続く。
「あーあ……やっぱイケメンには彼女がつきものよね。アレには適わないわ。顔小っさ、足長っ……てなもんで」
目がハートマークだったわりに、里奈さんの諦めは非常に早い。
イケメンに目を奪われたのも、ただの保養程度だったことが分かる。