正しい紳士の愛し方
大和さんは良い写真が撮れたと言ってくれたが、本当に形に残していいのか樹は少し迷った。
心に焼き付ければいいよね……。
こんな時、羞恥心や臆病といったマイナスな要素がどうしても勝ってしまう。
なけなしの勇気をふり絞って撮影したはずなのに、すぐに怖気付いてしまう情けない自分。
あと一つの選択枠を残して決定ボタンを押そうと手を伸ばす。
「ちょっと待って」
彼は樹の手を取って、決定ボタンを押すのを阻止した。
樹は驚いて思わず彼の顔を見上げた。
「もう一枚、選び忘れてるんじゃない?」
「そ、そうかな……」
咄嗟に視線を逸らす。
あからさま過ぎて、きっと彼も変に思ったはず。
写真は選び忘れたんじゃない。
選べなかったんだ。
ヘタレな自分が選択を拒んだ。
「だと思ったんだけど。でも、樹ちゃんが今のままで良いって言うなら、まだ残ってる一枠は俺がもらっていいかい?」