正しい紳士の愛し方
「ア、アタシも好き!大和さんの事……」
無意識に出た言葉だった。
ハッとした時にはもう遅くて、口を手で押さえたところで前言撤回できなくて。
何度も言ってきたはずなのに、彼の方から言われたからか数倍恥ずかしい。
落ち着け。
大和さんは“食べてるところ”が好きだと言ったんだ。
それ以外は普通なんだよ、普通……。
ゆるゆるの心にグッと平常心という名の縄をかけ、彼の表情をうかがう。
「ありがとう、樹ちゃん」
大和さんの後ろにキラキラした輝きが見えた気がした。
少女漫画の世界でしか知らない“キラキラ”に実際お目にかかれるなんて……恋って凄い。
「食事も済んだし、そろそろ送るよ」
大和さんは控えめに置かれている伝票を手に席を立つ。
会計のため、彼が個室を出ようとした時だった。
樹は慌てて立ち上がり、彼の背中に抱きついて引き止めた。
「……か、帰りたくない」
皺ひとつ無いカッターシャツを掴む両手に力が入る。