正しい紳士の愛し方
レストランを出て、二人はホテルのフロントへ向かう。
大和さんが声を掛けると、フロントの奥から白髪混じりの中年紳士が出てきた。
“支配人”
小さなプレートの名札にそうハッキリ書いている。
大和さんは今夜泊まる部屋の交渉をしていた。
ここは有名人も宿泊するような人気ホテル。
予約はいつもいっぱい。
というより、樹からすれば泊まる場所なんてどこだっていい。
極論を言えば、彼と一夜を過ごせるなら車の中でも星空の下でも贅沢だと思える。
樹はなんだかもの凄く申し訳ない気持ちになった。
だからといって、今さら“どこでもいい”なんて言えるはずもない。
「客室、準備してもらえるみたいだから行こうか」
「はい」
いいんだろうか……と思いつつ、樹は彼の半歩後ろをついて歩く。
客室へ上がるエレベーターが“チン”という音と同時に到着する。