正しい紳士の愛し方
二人が乗り込むと扉はゆっくり閉まっていく。
エレベーターの壁面はガラス張り。
好きな人と一緒に居られる夜を祝福してくれているかのような夜景。
普段なら“綺麗!”とか“高い!”などと言っては無駄にはしゃぐところ。
しかし、二人がいる閉鎖的な空間は浮ついた気持ちを許さない。
会話は無く、エレベーターが上昇していく鈍い音だけが響く。
「……百合さんってとっても綺麗な方ですね」
沈黙に耐え切れず、樹は会話を切り出した。
大和さんからの返答は無い。
沈黙を破るためだけに始めた会話。
声量は遠慮気味だった。
「アタシもあんな素敵に和服を着こなせる女性になりたいなぁ……みたいな……」
今度は彼にもハッキリ聞こえるくらいの声量で言ってみるも、ガラス張りの向こう側に広がる夜景をぼんやり眺めて上の空。