正しい紳士の愛し方
「……や、大和さん?」
「……ごめん、何……?」
樹の言葉はこれっぽっちも届いていなくて。
さっきと様子が違う彼に何も言えなくて、樹はううん……と首を横に振り「何もない」と会話を打ち消した。
そのうち、エレベーターは目的の階に到着して扉が開く。
大和さんはエレベーターをおりてから指定された部屋へまっすぐ向かった。
迷わない彼の後ろを追って歩いた。
「どうぞ」
大和さんはカードキーでロックを解除してドアを開けると、樹を先に室内に通した。
ホテルとは思えない広々とした空間が樹の視界に入る。
樹が知っているホテルの部屋と言えば、トイレとお風呂が一緒になっていて、ベッドとテレビだけのビジネスホテルがせいぜいだ。
「すごいっ!お風呂とお手洗いが別々!」
樹は部屋に入るなりドアというドアを開けてみせた。
彼は上着を脱いでハンガーに掛けると、入り口のクローゼットにおさめる。
「お部屋も広い!窓も大きい!」
エレベーターの中ではなんかちょっと気まずくて大人しくしていた樹だが、広々とした空間に普段通りの明るさを取り戻していた。