正しい紳士の愛し方


樹は戸惑いながらも、小ぶりなマスカットをひとつ運んだ。


彼の口が閉じる時、その唇が樹の指先に触れる。


指先から感じる熱に樹の身体は沸騰しそうになった。


頬を桜色に染める顔を、彼は意味深な笑みを浮かべて眺めた。


恥ずかしさでいっぱいの樹はフルーツの甘さで気持ちを落ち着かせようと苺を食べる。


「足りない……」


そう言って、彼は樹の唇を半ば強引に奪う。


「……んっ」


大きな手が濡れた髪の毛に触れ、逃げ出せないように支えられる。


白ワインと苺の香りが折り重なって新しいドリンクを飲んでいるよう。


甘くて芳醇(ほうじゅん)で魅力的。


ほんの少しで酔ってしまう。



どうしてこんなことになってしまったんだろう……



このキスの先に一体何があるというのか。



――…考えるのはやめよう。



樹は瞼を閉じて、静かな深海に沈んでいくように彼のキスに酔いしれた。


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