正しい紳士の愛し方


「大丈夫、すぐ治るから……。ちょっと、あそこで休憩してもいい?」


シュウが指さすのは妖艶なネオンが灯るホテル。


樹はゴクッと息をのむ。


「いや……でも、あそこは……」


よく知りもしない男性と入るのは躊躇われた。


いくら病人とはいえ、やっていい事とは思えない。


「お願い。なにもしないから……」


シュウは樹の耳元で囁いた。


強めの香水が樹の洋服に移っていく。



“なにもしない”って言葉を本当に信じていいのか。



だからって、病人をこんなところに放置しておけない。


「でも……」


是とも非とも言えないまま、樹はただうろたえるばかり。


「……早くしないと吐きそう。行こう」


シュウは樹の手を引いて、半ば強引にホテルの方へ歩き出した。



ヤダ……怖い……



今夜、樹の中で初めて芽生えた恐怖心。


強い力で引きずり込まれそう。


「ごめんなさい!やっぱり……」


樹は声を大にして主張し、手を振りほどいた。


その弾みで体が揺らぐ。


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