正しい紳士の愛し方
「笑ってるうちに引いとけってのが分かんないかなぁ……」
樹が恐る恐る目を開けると、大和さんがシュウの拳を自らの手で受け止めている。
力と力のぶつかり合いでプルプルしていた。
「や、大和さん……?」
声をかけると、大和さんはニッコリ笑って「ちょっとごめんね」と告げた。
シュウの拳を払い除け、代わりに彼の首に腕を回して、強引に移動させる。
万が一、樹に危害が及ばないようにと配慮した。
大和さんはシュウの耳元に口を寄せて言葉を投げかける。
「欲の捌(は)け口なら他当たれって言ってんだよ。この世界で生きていきたきゃ、分を弁えろ。大人なめんなよ、クソ餓鬼……」
その言葉には鉛よりも重みがあるようだった。
低く、小さく、地を這うように。
少し離れたところにいた樹には、彼がどんな表情でどんな言葉を投げかけたのかよく分からなかった。
やがて、大和さんはシュウの手のひらに白いカードのようなものを握らせて、樹の元へ戻ってくる。
「…………!!」
握らされたカードを見たシュウは、血相を変えてその場から走り去っていった。
「大和さん……シュウに何言ったの?」
「ん?別になにも。彼、イケメンだったからね。うちの雑誌モデルやらないかと思って名刺渡しただけ」
「でも、顔色悪くなって逃げていったように見えたけど……」
「そう?また、腹痛がぶり返したんじゃない?」