正しい紳士の愛し方
「ごめんなさい、もう帰ります。今日はありがとうございました……」
樹は深くお辞儀する。
今、一緒にいると嫌な女になる。
なんだか色んな事がありすぎて、心が追いつかない。
大和さんに背を向けて、黙って歩き出す。
「……言い逃げなんて酷くない?俺にも言い訳の一つぐらいさせてくれよ」
大和さんに手首をつかまれて、樹は足を止めた。
たしかに卑怯だ。
自分だけ言いたいこと言って逃げるなんて……
たとえ、どんな辛い現実だっていつかは聞かなきゃならないわけで。
明日か明後日、半年後か一年後なのが今夜になっただけのこと。
「……わかった」
樹はコクリと頷く。
大和さんは拘束していた手首を一度解放し、改めて手を繋ぎ直してから「ありがとう」と告げた。
「近くに車停めてるから移動しながら話そうか」
「うん」
そうして、二人は揃って歩き出した。
手を繋いでホテル街を歩くのはなんだか居たたまれなくて、樹はずっと視線を地面に向けたまま歩いていた。