正しい紳士の愛し方
車内という閉鎖的な空間。
なんだか気まずくて二人ともずっと黙ったまま。
このまま何の会話もなくアパートまで着いてしまうのだろうか。
それなら、一人で帰ったって同じじゃないか。
そう考えていた矢先、車は樹が住むアパートとは反対方向へ曲がっていく。
大和さんが働く高津書房でも樹が働く美容室とも違う。
「大和さん、アタシたちどこへ向かっているの……」
「ちょっと寄り道。付き合ってくれる?」
「うん、いいよ……」
“どこへ?”とは聞けなかった。
はじめから目的を持って、迷うことなく車を走らせていたようだから。
大和さんは「サンキュー」と柔らかく微笑んだ。
車は信号待ちで停車する。
「百合とはさぁ……家同士が仲良くて、小さい時からよく一緒に遊んでたんだよ」
突然だった。
しかし、樹の心の準備は済んでいたから「そうなんだ」と自然な返事を返す。
信号が変わり、大和さんは再びアクセルを踏んだ。