正しい紳士の愛し方
「百合の方が五つ年上で、俺のことなんて手のかかる弟ぐらいにしか思ってなくてさ。まぁ、色々ヤンチャしてたのは本当の事なんだけどね」
「意外です。ヤンチャしてたなんて……」
「そう?」
大和さんは昔の自分を懐かしんで、それに対する樹の反応を楽しそうに笑って受け止める。
本当に意外だった。
樹の知っている高津 大和はいつも紳士的で、優しい大人の男性だったから。
「片想いが始まって、いざ告白しようとすればすでに恋人ができていたり。突然、海外に行くって音信不通になってみたり。挙句は、結婚だってさ……。
俺の恋愛は一方通行な上、地平線を走り続けて終わりをむかえないまま。もう間抜け過ぎて笑ってやってよ……」
「いや、笑えないよ……」
終わりが見えない恋愛で言えば自分自身と重なって、樹はとても笑えなかった。
「そっか、笑えないか……」
「いや、そういう意味じゃないよ?ほら、恋をするって苦しいからさ……」
「アハハ、ありがとう。樹ちゃんは本当に優しいよね」
「そんなことないと思うけど……」
樹は大和さんの横顔を覗き見た。
顔は笑っているのに、瞳(め)が切なそう。
きっと、百合さんの前ではずっとこんな表情をしていたんだ。
伝えたくても口にできない想いをギュッと胸の奥に押さえつけて。