正しい紳士の愛し方
「少しここで待ってて」
そう言い残して、彼は会場のど真ん中にひとり入ってしまった。
樹は追いかけることができなくて、言われた通りにその場に立ち尽くす。
大和さんは真っ直ぐ百合さんのところに向かった。
彼が訪れたことを心から喜んでいる。
大和さんの首に細くて長い腕をまわして、ギューッとバグする。
「…………」
樹の心に小さな波風が立つ。
嫉妬心が無いと言えば嘘になる。
それよりも、大和さんの気持ちが気になって仕方なかった。
惚れた女に抱きつかれて、でも彼女は横にいる別の男のもので、決して手に入らない。
『嫌いになれない――…』
彼はこういう事を言いたかったんだと悟った。
そして、百合さんはすぐに樹の存在にも気付いた。
花のような満面の笑みで手を振る。
樹はホテルで出会った時と同じようにペコッとお辞儀した。
「さて、ここで新婦ご友人であります高津 大和様より一言ご挨拶を賜りたいと思います」
司会進行役の男性の言葉で会場内に拍手が起こる。