正しい紳士の愛し方
「僕と百合さんは両親の都合もありまして幼いときからよく一緒に遊んでいました。皆さん知っての通り、百合さんは面倒見が良く、近所でも本当の姉弟(きょうだい)に間違われることもあったほど仲が良かったです。
そんな彼女が人生を共に歩んでいくパートナーと巡り会えたこと ……本当に喜ばしいことです」
大和さんはスラスラとスピーチを進めていく。
時折、百合さんと顔を見合わせる。
大和さんと目が合うたびに彼女はニコリと微笑んだ。
百合さんの旦那さんになる彼も穏やかな表情でスピーチを聞いていた。
通訳もつけないところをみると、日本語がある程度分かるらしい。
友人のスピーチに会場全体も和やかムード。
百合さんの結婚報告パーティーにもきちんと出席するということが示したくて、わざわざ連れて来たのだろうか……
それならそれでも良いのだが、樹はイマイチこの場に馴染めず相変わらず会場の隅っこに佇(たたず)むまま。
「喜ばしいことではありますが……姉弟だと感じていたのは彼女だけで、僕自身は百合さんのことを姉のようだと思った時間は少しもありません」
大和さんが紡ぐ言葉に会場はザワつき始める。
どういった意味かという疑問と困惑。
この場で彼の言葉を正しく理解しているのは、おそらく樹だけ。
樹は百合さんの方に視線を向けた。
彼女はただ黙って大和さんのスピーチを聞いている。