正しい紳士の愛し方



「僕の中で桐嶋 百合はいつでもたったひとりの女性でした。今日という祝いの席で告げるものでは無い事は承知のうえで、それでも言わせて下さい。
桐嶋 百合さん、あなたの事が好きでした」


彼は百合さんの顔を真っ直ぐ見て、積年の想いを告げた。


まわりがザワザワと騒ぐのも気にしない。


大和さんの真剣さが心に沁みる。


何も知らない出席者たちは、彼のことを不謹慎だとか大バカ者だと笑うかもしれない。


百合さんの婚約者も分かりやすく戸惑った表情を浮かべていた。


「ありがとう、大和。ずっと好きでいてくれてありがとう……」


そんなあり得ない状況下で、百合さんだけが冷静だった。


まるで、彼の気持ちを知っていたみたい。


彼に気持ちを伝えられた時は、迷わずこう言おうと決めていたように感じられた。


きっと、これが百合さんの精一杯の誠意。


樹の瞳が潤んで、温かいものがこぼれた。


大和さんの想いが形と色味を持って見えた気がする。


あまりに柔らかくて優しい色合いで涙が止まらない。


きっとメイクもグチャグチャだ。


百合さんにとっておめでたい席で、大和さんの想いもちゃんと伝わって、こんな表情は似合わない。


樹は一歩、二歩後退りして踵を返すと、パーティー会場を後にした。


樹の表情や行動全て、彼が気付いているとも知らずに。



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