正しい紳士の愛し方
樹は車のある駐車場に戻るつもりだった。
それなのに、どこで道を間違えたのか店の裏手まで来てしまった。
立派なガーデンレストランの秘密。
それは、おとぎ話に出てきそうなオシャレで小さな温室。
入ってもいいよ……
わずかに開いている扉がそう囁いた気がする。
「お邪魔しまーす……」
誰に断るでもなく、温室の中に足を踏み入れた。
大小様々な観葉植物、料理や店の飾り付けに使うような草花。
月明かりが真上から注いで、いやに幻想的だった。
「コラッ!そこにいるのは誰だ!」
耳をつんざくような怒鳴り声。
樹の背筋はピンと伸びる。
「ご、ごめんなさい!扉が開いていたからつい……」
彼女は声のする方を向いて深々と謝罪した。
ツイてない。
この年齢(とし)で叱られるなんて。
しかも、子どものイタズラみたいな理由で。