正しい紳士の愛し方
「そうか、扉が開いていたなら仕方ないな」
声の主はあっさりは引き下がる。
樹は「はい?」と拍子抜けして、顔をあげた。
「大和さん……」
目の前に立っているのは温室の管理人ではなく、パーティー会場でスピーチをしていたはずの大和さんだった。
「びっくりした?」
彼は“してやった”と言わんばかりの表情で言う。
「えぇ、まぁ……」
樹はコクリと頷く。
驚いたのは確か。
しかし、大和さんと言えばこんなことのよりもっともっと驚かされた出来事が起こったばかり。
正直、内容よりも声の大きさに驚いただけ。
「レストランにこんな場所があったなんて知らなかった。すごいな……」
大和さんは温室内をぐるりと見渡した。
「でも、この場所……たぶんお客さんが入っちゃダメなところですよ」
「だろうな」
「じゃあ、本当に誰か来ないうちに出ましょう……」
その方がいい。
こんな密室に二人きりなんて、また涙が溢れてしまう。