エリート上司に翻弄されてます!
動こうとしてフラついた乾先輩に私は慌てて彼の体を支えようと近付く。
すると彼はそんな私のことを縋るように捕まえた。
「深桜ちゃん」
「っ……」
彼の熱っぽい瞳が私のことを映した。
「何処にも行かないで……」
ぎゅっと胸が締め付けられる。
そんな切なそうな声で、耳元で、囁かないで。
強い決心が、緩む。
「俺の側からいなくならないで」
「せんぱ、い」
「何もしないから」
いつもの乾先輩はそこにはいなかった。
いつもの格好いい彼じゃない。
今顔を上げてしまえば、彼の顔を見てしまえば、
私はきっともう彼から逃げられなくなる。
「何もしないって」
「深桜ちゃんに触れない。ただこの家にいてくれるだけでいい」
「……そんな先輩が困る、でしょ」
「困ったことに、深桜ちゃんがいなくなる方が可笑しくなるよ」