エリート上司に翻弄されてます!
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最悪だ、何もかも。
「おっもい……」
何で俺がこの女を家まで運ばなきゃならないんだ。
自分で勝手に俺の酒飲んで倒れたコイツを。
苛立ちが最高潮になっていることに自分でも気が付いていた。
あのよく分からない愚痴を散々浴びされて最後にはこの始末。
この女、起きたらどう仕置きしよう。
この女のマンションに着くと背中に乗せていたその体をベンチへと下ろす。
倒れ込む彼女の体を起こして俺はその頬を叩いた。
「起きろ、家だ」
「……」
全然起きる気配がない。
それもそうだ、ここまで運んできている最中にも起きるどころか寝息まで立ててやがった。
何でこんな時間まで酔い潰れた女の介抱をしなくてはいけないのか。
苛々から彼女の頬を強く掴んで引き伸ばしていると目元が赤く腫れているのが分かる。
さっき居酒屋で泣き散らしていた跡だ。
今日の昼間、あの向井とかいう女が乾さんのことを食事に誘っているところを見た。
彼はそれを軽く承諾していた。
乾さんはこの綾瀬よりももっと分かりやすい人間だと思う。
一緒にいると綾瀬が好きなんだってすぐ分かった。何故他の人にバレていないのか不思議に思ったくらいだ。
それぐらいあの人は綾瀬しか見ていない。
「(どっからどー見ても好き合ってんじゃん……)」
何で俺がこんな2人の恋ごときに振り回されなきゃいけないんだ。
目の前で人の気も知らずに眠りこけている女の隣に座ると胸ポケットから一本取り出した。
そして火を付けると一服。
どうするか、このままここにいても風邪引くし、でも俺が部屋に連れてったら乾さんに変に思われる。
だからこの女を起こして自力で家に帰ってもらうしか手はない。
空に舞い上がる煙を見つめて、視線を綾瀬に戻す。
この位置から見ても彼女が泣いたというのがよく分かる。
「(女泣かせたの久しぶり……)」
どうしてここまで俺はこの女に振り回されてるんだろうか。