エリート上司に翻弄されてます!
やっぱり30分じゃ話をしようにも聞いてもらえない。
男性は「また後日、改めて時間を取ってくれ」と私の隣を通り過ぎる。
もうここまでか……
そう思うとじわっと涙が滲み出てきた。
と、
「お願いします」
そう聞こえてきたのは乾先輩の真剣な声だった。
「10分でいいです、10分だけください」
「先輩……」
振り返ると乾先輩は私よりも深く頭を下げていた。
「……そんな短い時間で話が出来るのか」
「次の会議に遅れるようなことをさせません。時間が来たら直ぐに下がります。俺の話を聞いてもらうだけでいいです」
お願いします、と何度も頭を下げる彼に私も「お願いします!」と再び頼み込んだ。
私のために諦めてない人を前にして、私が諦めるわけにはいかないんだ。
ミスをした私が誰よりも先に諦めたらそんなの責任もあったもんじゃない。
何十秒頭を下げていたのかは分からないが、その男性が息を吐き出すとスマホを取り出した。
「分かった、今いるだけの社員を集めよう」
「っ……」
「ただし10分だ。これは守れ。時間が来たら追い返す」