エリート上司に翻弄されてます!
乾先輩の表情は今までに見たことないものだった。
「深桜ちゃんが元に戻りたいって言ったんだろ?だから俺はひたすらに自分の気持ち我慢して」
「せんぱっ」
「俺は深桜ちゃんを諦めたいんだよ。どんな思いで俺が……」
彼の表情は怒りから苦しみへと移り変わっていく。
悶え苦しむような声を震わせる彼はそのまま崩れ落ちるように私の首に頭を置いた。
「深桜ちゃんは、俺のこと何も分かってないね」
彼はそう告げると顔を上げる。
私の目に映った彼は私よりも泣きそうな顔をしていた。
私は、何も分かっていなかった。
彼の気持ちも、彼の苦しみも、彼の葛藤も。
何も気付けていなかった。
「もう深桜ちゃんなんか知らない」
乾先輩はそう言い残して私から離れると資料室を出て行った。
扉がバタンと閉まるのを聞いて、私は力が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
するとどこからもなく涙が溢れ出てくる。
「(最低だ、私)」
何1つも分かっていなかった。分かったふりをしていた。
私の勘違いで彼を苦しめた。
私はどれだけ彼を苦しめれば気が済むんだろう。
彼がいなくなってしまうことよりも、彼に嫌われる方が怖いのだと今知った。