エリート上司に翻弄されてます!
「あ、ちょっと難しい。人のつけるのって初めてだから」
「深桜ちゃんの初めて頂きました」
「初めてだから手加減が出来ないなぁ」
「ぐ、ぐるじい!」
おっと、手が滑って彼の首を絞めてしまっていた。
緩めると彼にちょうどいい長さで止める。うん、初めてにしたら上出来。
乾先輩も満足したようにへらりと笑った。
「じゃあ俺は行ってくるね。戸締りお願いしていい?」
「はい、行ってらっしゃい」
「駄目、玄関までお見送りして」
ほらほら、と手を引っ張られて私はリビングを出る。
玄関って、新婚じゃないんだからと私は顔を赤くする。
「先輩、分かってるかもしれないかもですけど会社では付き合ってること秘密にしてくださいね?」
「え、何で?」
「当たり前でしょ!軽くパニックになりますよ!」
「ふーん、そうなんだ?」
そうなんだってこの人、いつも侍らせていたあのハーレムの存在を忘れているのだろうか。
あんなのに乾先輩と付き合ってるのがばれたら最初から言っているように私の命はない。
私は「絶対ですよ!」と念押すと「分かったよー」と呆れたように返事をした。
「じゃあまた会社でね」
はい、と返事をしようと顔を上げた瞬間、唇にちうっと音を立てて何かがぶつかった。
後頭部に回された手のひらが私の頭を支えて前へと引き寄せる。
そんな短なキスを終えると彼はニッコリと微笑んでドアノブに手をかける。
「行ってきます深桜ちゃん」
「……」
そう手を振って彼は家から出て行くと扉が私の眼の前でバタンを音を立ててしまった。
「い、ってらっしゃい……」
私、乾先輩と暮らして心が持つのかな。