そこには、君が
「本気で言ってんのか」
「なんで嘘言うのよ…」
呆れて物も言えない。
こんな状況で、
嘘なんかつく訳がない。
目も合わせず、
私は大和に近づこうとせず。
聞こえてくるのは、
訳の分からない怒鳴り声だけ。
「何考えてんだよ、お前!」
おい、明香。と。
いつもの優しさなんてまるでなく、
強引に私の腕を引っ張り上げる。
「離して」
「なんであの男なんだよ」
「徹平さんは、すごくいい人なの」
徹平さんだったら、
こんなことしない。
無理矢理言い聞かせようなんて、
絶対にしない。
「やめとけ」
「なんでそんなこと、大和に言われないといけないの?」
余計なお世話だ。
余計なお世話だ。
余計な、お世話だ。
「大学生だろ?そんな男…」
もう、うるさい。
なんでそこまで言うの。
どうでもいいでしょ。
分からず屋。
「1番関係ない大和に、言われたくない」
刹那。
何かが、切れる音が
聞こえた気がした。
まるで糸が解けたように。
私の腕と大和の手が、
ぷつりと、離れた。
「好きにしろ」
その言葉を発した大和は、
もう一切私を視界に入れず、
ただ黙って家から出て行った。
残された室内には、
大和が怒る理由が見当たらない困惑と、
何かを失った喪失感だけが、
堂々と存在感を放っている。
私はしばらく、
何も考えられなかった。