そこには、君が
来て間もないのに、
寄るところ寄るところで
お土産を手に取ってしまい、
気づけば片手には大きな袋。
「お食事は後程お持ちいたしますね」
女将さんは、館内の案内用紙と、
利用地図を机に置くと、
深々とお辞儀をして部屋を出て行った。
「夕飯まで時間あるし、風呂でも行く?」
「…え、お風呂?」
徹平さんの発言に息を呑む。
まさか、と思ってはいたけど、
温泉に一緒に入るとか…。
だけど、付き合ってるわけだし、
おかしくはないわけで。
それでも、一緒にお風呂は
ハードルが高いというか。
「明香ちゃん」
「は、はいっ…」
「一緒に入るわけじゃないから安心して?」
クスクス笑う徹平さんは、
私の肩をポンと叩き満面の笑み。
しまった。ですよね。
私ってば、何考えて…。
「まだ着いたばかりだし?」
徹平さんは、貸出浴衣を手に取ると。
そっと耳元に顔を近付け。
「夜は長いんで」
ね?と。
勝ち誇ったように笑って、
私に浴衣を手渡した。
「…すみません、」
恥ずかしさに、いたたまれなくなって
顔を上げることなく大浴場へ。
すれ違う人たちから、微かに温泉の
匂いが漂ってくる。
「じゃあゆっくり入ってきてね」
「また後で」
徹平さんは黒い暖簾を。
私は赤い暖簾をくぐり、
中へと入っていく。