そこには、君が





大浴場内は広い。


そして、うっすら明るい程度で、


ほとんど灯りはないのと同じ。


それでも明るく感じられるのは、


窓から月の明かりが入るから。







「わっ!」







シャワーを前に、


1人大きい声を出す。


手に持っていたお風呂道具が、


滑って転がっちゃったから。






「大丈夫ですか?」






それを取ってくれたのは、


とても綺麗な女の人。






「すみません。ありがとうございます」






微笑んで、露天風呂の方へ


向かっていくその人は、


とても美しくて、女の私が


見とれてしまうほどだった。


髪を洗い、体を洗い、


1番人気のお湯に浸かろうと


足を向けた時。


中にさっきの女の人が


入っているのに気付いた。






「ここ、いい宿ですよね」






私が1人なのに、


気を遣ってくれたのか、


女の人はこっそり声をかけてくれた。







「本当綺麗で、驚きました」






ふと視線を落とすと、


とても細身な体に不釣り合いなお腹。


ぽっこりしている下腹部に、


違和感を感じた。







「あ、分かっちゃいました?」





「…え?」






女の人は、お腹を撫でながら、


愛おしいものを見るような目で


それを見つめながら。







「安定期には入ったんです」






そう言った。







「赤…ちゃん?」





「はい。本当は温泉、ダメって言われたんだけど」





「え、え、大丈夫なんですか?!」






「大丈夫。私の子どもだし」






初めて間近で見る、


妊婦さんのお腹。


触っていいよと言ってもらって、


すかさず手を伸ばす私。









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