そこには、君が
「じゃ、準備しといたからっ…っなに、」
台所を後に。
しようとしたその時。
大和が突然、私の背後に現れて。
「ちょっ、どこ行くの…っ!」
何も言わない。
大和はそのまま自分の部屋へと、
引っ張って行く。
「まさか寝る気?ご飯準備したってば」
真っ暗の部屋。
明かり一つ付けない。
まだ夕方で、外もまだそんなに
暗くはないはず。
でもこの部屋だけは、
いつも真っ暗だ。
「痛っ…、なんか踏んじゃったよ」
部屋の入り口。
ドアを閉めて軟禁。
連れてきたくせに、
大和は私に背を向けて立っていて。
後ろ姿を見つめながら、
ふと、思う。
大和に近付いたの、
なんか久々だなって。
「大和、」
「なに」
「部屋、片付けよっか?それとも寝る?」
何気なく。
その背に。
触れたくて。
「ね、大和…」
今日の私は、
どうにかしてる。
確かに私は、
頼まれてここに来ていて。
今も、帰れば済むこと。
だけど、少しイラつく。
さっきの香水が、
匂う気がして。
「お前、うるせぇ」
大和はそう言って、
突然振り向いて。
私を力強く、だけど優しく
手を自分の方へ引き。
いつになく、ぎゅっと。
私を抱きしめた。
「…大和?なに、どしたの…」
違和感。
いつもと違うのは、
私だけじゃない。
そう感じた時。
「訳分かんねえ」
「だから、何が…」
私から体を離した大和が、
じっと私を見る。
そんな大和をじっと見つめると、
視線が外せなくなった。
逸らせない。
私を見ている瞳が、
いつになく真剣だから。
「逃げんな」
「別に逃げてなんかっ」
慌てた。
別に逃げていたわけではない。
ただ言うならば、
何を話したらいいのか分からなくて。
戸惑っていた。
それだけのことで、
私は大和から距離を取っていた。