そこには、君が






「もしもし」





その日の夜。


テレビを見ていた私に、


かかってきた京也からの電話。


三コールで出ると、


珍しく焦った声色。








「ど、どうしたの…?」





『大和、警察に連れて行かれた』





「すぐ行くっ…!どこ…?」







大和が警察になんて。


そんな訳がない。


朝のことなんかもうすでに


頭から抜けていた。


今はもう、


ただただ信じられない。








「京也!」






警察署の中に入ると、


京也がソファーに座っていた。


少し疲れているのか、


いつもより表情が暗い。









「大和、どうして…」






「あいつは何も悪くない。万引き犯、捕まえただけ」







事情を全て聞いた。


放課後、ブラブラと駅近くを


うろついていた時。


本屋から逃げる人が偶然、


大和にぶつかり、大和はその犯人を、


無理矢理倒して捕まえた。


その犯人から、雑誌らしきものを


取り上げた時、「万引き犯だ〜!」と


叫ばれたことがきっかけ。


油断した隙に、犯人は逃げ、


大和は万引き犯にされた。








「そんなの…言いがかりじゃん」






「警察もさ、信用してくれなくて」







何度も何度も違うと言っても、


証拠はあるのかと言い詰められる。


こんな理不尽なこと、


あっちゃいけないのに。








「でも目撃証言あったらしくて」






「え、じゃあ…」






「うん、もうすぐ出てくるはず」







それから数分。


二人で沈黙を守ったまま、


座り込んでいると。









「うるせーんだよ、触んな!」







「なんだその口の聞き方は!」







どこからか怒鳴り散らす


声が聞こえた。


そして現れた大和。








「大和!」






見ると大和の制服は汚れていて、


顔には少し傷が付いている。


隣にいる警察官はなぜか笑っていて、


大和の肩をポンポン叩いていた。









「うん、もう帰っていいよ」







その軽い一言に、


反応したのは京也だった。


警察に詰め寄り、


ふざけんなと怒鳴る。


当たり前だよ。


こんなの普通に、


おかしすぎる。







「京也、やめろ」






「いや、おかしいだろ…」






「警察が無能なだけ。ほっとけ」








私も京也に駆け寄り、


腕を掴んで警察から引き剥がす。


納得のいかなさそうな様子で、


京也はゆっくり引き下がった。








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