そこには、君が
「いいから、帰れ」
私を映さなかった瞳に、
誰かが映った。
大和は私の向こうを見て。
手を上げた。
「ごめんね、遅くなった!」
可愛い声がした。
一瞬で振り向いたはずなのに。
全てがスローに見えた。
後ろで聞こえたその声が、
私の全身に駆け巡る。
まだ姿も見ていないのに、
虫唾が走った。
「普通に遅せえ」
「本当ごめん!お詫びにあげるから!」
やっと私の視界に入ったその子は、
私と同じ制服を着ていた。
ストレートロングの綺麗な髪が、
風に靡いていて、
華奢なラインがより一層彼女を引き立たせていた。
「えっと、邪魔だった?」
その子が言う言葉1つが、
私に響いて苦しくなった。
大和をそっと見ると、
その子を真っ直ぐ見つめていた。
こんな事、初めてだったから。
思っている以上に、戸惑った。
「入ってて」
大和は静かに手を伸ばすと、
彼女の手を引いた。
そして中に入れると、
代わりに自分は外に出て。
「帰れ」
私の肩を押した。
優しくそっと、割れ物にでも
触れるかのように、押した。
けれど私にとってそれは、
味わった事のない衝撃に過ぎなかった。
「大和…、なんで、」
手に持っていた袋が、
パサっと音を立てて落ちた。
もう苺なんて、
頭から飛んでいた。
大和は、軽くため息をついて、
私の前にしゃがんだ。
いつもだったら、こうじゃない。
私が家の中に通されて、
他の女の子なんて相手にしない。
ひどいよって私が言うと、
ひどくないって鼻で笑う。
私を押した手は、
私を優しく包んでいた。
「彼氏とでも、食えば」
ほら、と。
後ろを見た。
大和の視線を同じように辿ると。
そこには誰もいなかった。
その瞬間。
大和は私の手をそっと握ると、
落ちた袋をそのまま手渡し。
ガチャ。
家の中に入って行った。
私の目の前から、大和が、
黙って消えた。