そこには、君が





大和の家を後にした私は、


どうやって帰ったか覚えていない。


苺は、ムースにすることにした。


材料を買わないと。


そう思ってから、2時間が経った。


整理ができなかったんだ。


大和が私を見ていない理由も、


他の女子へ差し伸ばす手も。


未だに信じられないが、


少し潰れた苺を見ると現実だったと


いうことを思い知らされる。







「買いに、行かなきゃ…」






そうだ、材料。


私は財布を片手に、重い腰を上げた。


近所のスーパーだから、と薄着で出たことに


後悔した。


寒くて震えた。


そして、エレベーターを待っている時。


嫌な予感がした。


何か嫌なことが起きる気がした。


これといって理由はないが、


大抵当たる私の勘。


機械音がして、エレベーターが降りてくる。


入口が透明なガラスであるため、


入る前から人がいるのが分かる。


知りたくなくても、分かるんだ。







「あ、」






そこには、先ほどの女の子がいて、


私を見ていた。


さっきぶりですね、なんて笑って、


小さく言った。


けれど嫌味な感じは一切なくて、


絶対いい子だと感じた。


だけど受け入れられなかった。







「どうも、です…」






「お買い物ですか?」






彼女の口が紡ぐその声は、


柔らかくて優しくて可愛かった。


それでいて整ったお顔をお持ちのようで、


万人が惚れることは間違いなかった。


だからといって、大和の何なのかまでは、


想像できないけど、きっと私の知らないところに


いってしまってるのだろうと感じた。






「苺のムースを、作ろうかと…」






「あ、苺!私もさっき食べました」







鼻につく話し方でもないし、


腹が立つことを言われている訳でもない。


けれども、受け入れられなかった。


あの家の中で食べていたのだから。






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