そこには、君が
借りたもの。
正確には勝手に置いておかれた
ものだけど。
上着を借りたままではいけない。
「出来た」
苺のムースが仕上がった。
苺も多かったし、
買った材料も大量にあったから、
数を作るのには苦労しなかった。
上着を返すのと、出来たムースのお裾分け。
理由はそれで十分だった。
「出るかな」
携帯を耳に当てる。
メールを打つより、電話の方が早いから。
だから電話をかけるだけであって、
他に理由はない。
話したいとか、決してない。
『ん』
電話越しの大和の声は、
面倒そうなのが嫌ほど伝わった。
ん、以外の言葉を発さず、
ただ私の言葉を待っているようだった。
「あのさ、」
私はいつだって、どんな時だって。
素直になるということが、出来ない。
「上着、置いてくの、やめてよ」
『ああ、迷惑な女がそこに居たから』
飛びつくように、温もりを求めたくせに。
私はいつだって、思っていることを、
何も言えない。
「ていうか、何あれ」
『あ?なに?』
「女の人。彼女?」
自分でも冷たいとは思う。
そして、答えないでくれと思う。
だけどその願いは叶わず、
大和はたった一言、返事をした。
『だったら、なに』
曖昧な、けれども否定もしない。
私の欲しい答えでもなく、
何も掴めない言葉。
「だ、だったらって、何で言わないのよ」
『言ったって、どうにもなんねえだろ』
ごもっともです。はい。
事実を聞いたところで、
どうにかなる訳ではありません。
「そういう問題じゃないじゃん」
『じゃあなんだよ』
低い声が耳に響く。
大和が少し、イライラしているのが分かる。
こっちがイライラする。
いつの間にか彼女作って。
私を外へ放っぽりだして。
怒りたいのは、私の方だ。