そこには、君が



「似合ってるよ?」






「でも…」






「絶対誰にも負けてない自信が俺にはある」







徹平は何の根拠もない言葉を私にくれた。


徹平がこんなに褒めてくれる。


きっと喜んでもくれている。


だけど心が弾まなかった。


理由は分からないけれど、


きっと大和のせいだ。


この中に行けば大和がいる。


それが物凄く気になって、


足が動かなかった。


入るしかないんだけど。


今更引き返すなんて、出来ないんだけど。


どうして大和たちを呼んだんだろう、と


そればかりが気になってしまった。






「先輩!お疲れ様です!」






立ち止まっていると、


急に店の扉が開いた。


中にいた徹平たちの後輩であろう男の人が、


満面の笑みで私たちを招いた。







「結構中入ってる?」






「ぼちぼちですね。あと何組かはまだですけど」







そうか、の言葉と同時に、


徹平と視線がぶつかった。


入らざるを得ない状況になってしまい、


笑顔を作ってエスコートしてもらう。


足が上手く動かず、つまづきそうになる。


徹平は私から身を離さず、


腕は腰に回したままだった。





「ちょっと奥行ってくるから、待ってて?」






「うん」







徹平たちは従業員へ挨拶のために、


奥のスタッフルームへ入って行った。


取り残された私の顔を、


凛は心配そうに見つめている。


それに気付きながらも、


私は何も聞かれないようにと


平然を装った。


にも関わらず、凛はすぐに見抜き、


私の手を握った。







「明香、何考えてるの?」






「いや、何も…」







泣きそうだった。


急に不安になるし、


どうなるか怖い気もするし、


何より、何も分からない。







「永森くんたちのことでしょ?」






大和の名前が出た時。


顔を上げた私の目に映ったのは、


正装姿の大和と京也だった。


そして私たちを招き入れてくれた人が


私の名を呼んだ。





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