そこには、君が







「来たんだ、あの子も」






「そうみたい。可愛いよね、あの子」






そう言う私を、凛は目を丸くして見ていた。


私は大和のジャケットをどこにやることも


出来ず、少し冷えた足元にかけた。


大和たちは私たちとは反対のカウンターに


腰掛けていて、顔を上げれば目が合う場所だ。


私は必死に視線を落とし、


3人を見ないようにしていた。







「お待たせ」






徹平と春太さんが戻ると、


中から少し年配の人が現れた。


その人はすごくダンディーで、


お酒を作る姿が似合いそうだ。


徹平曰く、その人が店長さんらしく、


乾杯の挨拶をしていた。







「明香」





「なに?」






ヒソヒソと耳元で話す徹平。


くすぐったくて身を捩ると、


徹平は私の腰に手を回し、


動かさないように引き寄せた。








「友だちたち、来てくれたんだね」






「あ、うん。そうみたい…」






「話してきたら?」






「…いや、大丈夫だよ?」







何の意味があるアシストか分からず、


さっと受け流した。


徹平をチラッと見た時、


目線を辿るとその先には大和がいて。


大和は、どこを見ることもなく、


徹平を見ていた。


お互い何を言うわけでもなく、


どうするということもなく、


ただ見つめ合っていた。


分かることは、


平和じゃないってこと。







「明香、これ美味しいよ!」






「どれ?あ、本当だ。美味しい」






乾杯を済ませ、各々が食事を始めた。


ビュッフェスタイルも用意されている。


カウンターに座っている人には、


お菓子やおつまみなど、


自動で運ばれて来ていた。


凛に勧められたお菓子を


同じように食べる。


見たこともないお菓子だったけど、


甘すぎず、けれど濃厚で、


私の舌にはピッタリだった。






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