そこには、君が





「こちらもおすすめです」





店員さんがカウンター越しに、


新しいお菓子を運んでくれた。


ありがとうございます、と。


お礼をした時。


店員さんの向こう側にいた大和が、


私を見ていた。


正確にはこっちを見ていて、


私の視線が大和とぶつかった。


わざとじゃない。


何だか分からないけど、


自然とそうなった。







「明香」





「ん?」






気のない返事をする中でも、


大和への視線を外せず、


顔を横へ向けることも出来ない。


その繋がった視線を先に解いたのは、


大和の方。


隣の女の子に呼ばれ、


横を向き、


お菓子食べる?とでも


言われているような、


そんな絡みを見せられた。


大和は優しく首を振り、


女の子がお菓子を摘んでいる手を、


その子の口へ運んであげていた。


笑っている。


女の子も、大和も。







「どこ、見てるの?」






「あ…えっと、いや、…ごめん」







急いで弁解しようとした。


刹那、弁解する必要がないことに


気付いた時には、遅かった。








「ごめん、トイレ行ってくるね」








居ても立っても居られなかった。


目の前で笑っている大和の顔が。


近くにいるあの子の存在が。


私には何の得もない、


あの2人の関係が。


私は足元のジャケットをそっと腕にかけ、


トイレへ向かった。


何もかもを忘れたい。


そう思ったら、自然と涙がこぼれ出た。



泣いたんじゃない。こぼれ出てしまっていた。







「何、あれ…」







鏡を見て、表情に驚く。


すごく悲しそうな顔をしている。


徹平と一緒にいて、すごく楽しいはずなのに。


凛と居られて、嬉しいはずなのに。


それらを吹き飛ばすかのような、


私の表情に、愕然とした。


帰りたい。


こんな泣き顔を見せられない。


そう思いながらも、帰ることなんて出来ず、


一旦席に戻ることにした。







< 142 / 325 >

この作品をシェア

pagetop