そこには、君が





凛たちが前を歩き、


私たちが少し後ろを歩く。


なぜか徹平とは気まずかった。


それはきっと私だけが感じているのではなく、


徹平自身も何か感じているようだった。








「寒いね」






「そうだな」








言葉を投げかけてみるも、


その言葉さえ浮かばず、


単語での会話になっている。


感情もなく、内容もなく、


ただ隣を歩くだけだった。


私はというと、


言われた通りにジャケットを


肩に羽織っている。


それはただ寒かったから。


だけどこのジャケットが、


私たちの気まずさを生んでいた。









「それ、」







「え、なに?」







消え入りそうな声を逃さないよう、


徹平を見ると、帰り道で初めて、


目が合った。








「上着、どうしたの?」







「あ、これは…」








名前を出すべきか、出さないべきか。


説明すべきか、すべきでないか。


そんなことをぐるぐると考えているうちに、


家の前にたどり着いた。


いつの間にか凛たちはいなくて、


そこには空気の凍った私たちだけが


残されていた。








「あ、幼馴染くんか」







「そ、そうなの」








もっと甘い空気で帰る予定だった。


なんなら、家の中でゆっくりと、


ココアでも飲みながら過ごしたかった。









「だと思った。失敗だな」







「失敗?」








徹平は少し悔しそうに唇を噛むと、


苦笑いをしながら私を見つめた。










「今日は、牽制のつもりで彼たちを誘ったんだ」








「牽制?」








ずっと聞けなくてモヤモヤしていた私の思いを、


見透かしたように言葉を紡ぎ始めた。








「いつも何か、明香が彼のものだって言われているような気がしてね」








徹平は笑う。


切なそうに笑う。


それを見て、申し訳なくなった。


私が悪い。私がひどい。


そう思わざるを得なかった。








「どうしても、俺の明香だってことを、見せてやりたくてさ」








ごめんね、と。


徹平は私の髪にそっと触れ、


優しく静かに撫でてくれた。


たくさんの疑問が浮かぶ。


なぜこの人は私を好きなのか、とか。


なぜ大和はこの人と別れろと言うのか、とか。


なぜ私はどちらも振り切れず中途半端なのか、とか。








「ごめんは、私の方だよ」








そう。


ごめんは徹平が言う言葉じゃない。


私が言わなければいけない言葉だ。









< 146 / 325 >

この作品をシェア

pagetop